「アドリブ」ではなく「型」がある
避難所では、声を上げやすい人が自然とリーダー的な役割を担い、 そうでない人は遠慮して受け身になりがちです。しかし避難所運営には、その場の 思いつきに頼らず動ける、あらかじめ決まった仕組みが数多く存在します。土台に なっているのは、内閣府(防災担当)が公表している「避難所運営等避難生活支援 のためのガイドライン」です。唯一絶対の全国統一マニュアルがあるわけではなく、 各自治体がこのガイドラインを地域の実情に合わせてカスタマイズしていますが、 「型」自体は広く共有されています。型を知っておけば、自分から率先して 動く勇気がなくても、決められた手順に沿って参加できます。
役割分担表(WBS方式チェックリスト)
内閣府のガイドラインには、避難所運営に必要な業務を19項目に分解した チェックリストが付属しています。「誰が」「いつ(災害のどの段階で)」 「何をするか」が一覧化されており、対応できる人数が少ない場合には、 優先すべき業務を選ぶ目安にもなります。避難所によっては、このリストを もとに受付で「手伝えることはありますか」と聞くと、具体的な業務名で 案内してもらえることがあります。抽象的に「何か手伝う」と考えるより、 リストにある業務名を尋ねる方が、実際には動きやすくなります。
役割の「見える化」(ビブス・腕章)
「本部」「誘導」「救護」「情報班」「物資班」のように、役割ごとに色分けした ビブスや腕章を配布する運用は、防災訓練や自主防災組織で広く使われています。 遠くからでも誰が何を担当しているか一目で分かり、住民側も「この色の人に 聞けばいい」と判断しやすくなります。手伝いたい人は、ビブスを配布している 係から受け取る、あるいは並んで申し出るという受動的な参加のしかたができるため、 自分から声を張り上げる必要がありません。すべての避難所に用意されているとは 限りませんが、なければ「名札やガムテープに役割を書くだけでも目印になる」と 運営者に提案してみるのも一つの方法です。
当番制・輪番制
炊事・清掃・トイレ管理などを、特定の人に固定せず日替わり・班替わりで回す 当番表方式も一般的な仕組みです。内閣府のガイドラインでも、役割が一部の 住民だけに偏らないよう定期的に見直すことが明記されています。当番表がある 避難所では、「今日は自分の番だから」という外形的な理由で動けるため、 自分から手を挙げる勇気が要りません。逆に当番表がない場合は、運営者に 「順番を決めた方が負担が偏らないのでは」と提案することも、間接的に 自分自身の参加のハードルを下げることにつながります。
避難者カードという共通様式
多くの自治体が「避難者カード」という共通様式を用意しています。氏名・ 連絡先・世帯構成・持病や必要な配慮などを記入する受付用のカードで、 内閣府も自治体向けに標準化を進めています。あらかじめ自宅で記入して 持参しておくと、混乱した状況下での記入漏れを防げるだけでなく、受付での 滞留時間も短縮できます。お住まいの自治体のサイトで様式をダウンロード できることが多いので、非常持ち出し袋に印刷したものを入れておくと安心です。
事前訓練としての「避難所運営ゲームHUG」
静岡県が開発した「避難所運営ゲーム(HUG)」は、様々な事情を抱えた 避難者カードを、模擬避難所の図面に配置しながら受付・部屋割り・ トラブル対応を疑似体験する、体験型のシミュレーションです。全国の 自治体・学校・自主防災組織の訓練で使われており、「本番でどう動けば いいか分からない」という不安を、事前のロールプレイで減らす目的が あります。地域の防災訓練で実施されることがあるため、機会があれば 一度参加しておくと、実際の避難所でも落ち着いて行動しやすくなります。
避難所運営委員会・自主防災組織という枠組み
多くの地域では、自治会・自主防災組織のメンバーがあらかじめ「避難所運営 委員会」を組織し、総務・食料物資・医療衛生・情報広報といった運営の 部門分けを平常時から決めています。災害が起きてから初対面同士で 役割を決めるより、事前に顔の見える関係を作っておく方が、いざというときの 混乱を減らせます。お住まいの地域の自治会・自主防災組織がどのような 体制になっているか、平常時に確認しておくとよいでしょう。
避難所の「質」にも国際基準がある
避難所でできることだけでなく、避難所そのものが満たすべき水準にも、 客観的な基準が存在します。国際赤十字などがまとめた「スフィア基準 (人道憲章と人道支援における最低基準)」では、トイレは20人に1基、 生活空間は1人あたり最低3.5平方メートルなど、具体的な数値目標が 示されています。日本でも、トイレ(Toilet)・キッチン(Kitchen)・ ベッド(Bed)を発災から48時間以内に整えるべきとする「TKB48」という 考え方が、避難所・避難生活学会などから提唱されています。「避難所だから 仕方がない」と諦めるのではなく、こうした基準を知っておくことで、 改善を求める際の具体的な根拠にもなります。