避難所で実際に起きているトラブル
内閣府男女共同参画局が公表しているガイドラインでは、過去の災害の避難所において、 プライバシーが確保しにくい環境での盗難や、性暴力・ハラスメントの被害が報告されて きたことが指摘されています。避難所は多くの人が善意で協力し合う場である一方、 平常時とは異なる集団生活・ストレス下では、こうした問題が起こりうる場でもある という前提を持っておくことが、備えの第一歩になります。ただし、こうしたリスクは 避難所だけの問題ではありません。避難のかたちによって注意すべき点は変わります。 大切なのは、「気をつける」という心構えだけで終わらせず、被害に遭う確率を 具体的に下げる行動を組み合わせることです。以下、それぞれの場面でできる 具体策を紹介します。
被害に遭いにくくするためにできること(場所選び・関係づくり)
犯罪心理学や防犯の分野では、「人目があること」と「孤立していないこと」が 被害に遭う確率を下げる基本要素とされています。避難所では、可能であれば 出入り口や運営本部・照明の近くなど、人の往来が多く見通しの良い場所に 荷物・就寝スペースを構えると、暗く人目につかない場所に比べてリスクを 下げやすくなります。単独より集団でいる方が狙われにくいため、家族・友人・ 近隣住民など顔見知りのグループをできるだけ早い段階で作り、トイレや 物資受け取りに一緒に行く、就寝スペースを近くにまとめるといった行動を 習慣にしましょう。自治会や自主防災組織の班分け・当番活動に参加することも、 周囲との「顔の見える関係」を作り、結果として防犯につながります。 子供には、はぐれたときの集合場所と、大声を出す・防犯ブザーを鳴らすといった 対処法を、避難する前に一緒に練習しておくと安心です。
実際に避難所を経験した人たちの声から学べること
東日本大震災後に「東日本大震災女性支援ネットワーク」が行った調査では、 避難所で性暴力の被害にあった女性が、「騒いで周りに迷惑をかけたくない」 「恥ずかしくて誰にも言えなかった」という理由で被害を訴え出られなかった ケースが複数報告されています。周囲に目撃者がいても、集団生活の中での 気まずさから見過ごされてしまった例もありました。この教訓から、 「おかしいと感じたら、その場で対立しなくても、後から運営者や 警察相談専用電話#9110に伝える」という選択肢を、被害者本人だけでなく 周りにいる人も持っておくことが呼びかけられています。声を上げることは 恥ずかしいことではなく、次の被害を防ぐ行動でもあります。
女性の防災を支援する団体の記録には、被災者自身が編み出した対処法も 残されています。就寝時にマスクや帽子を身につける、髪をまとめておくなど、 「暗がりで見分けがつきにくいようにする」工夫や、トイレには夜間必ず 複数人で行くという習慣です。就寝スペースを男女で区分けした避難所では、 被害の抑止につながったという報告もあるため、区割りが未整備な場合は 早めに運営者へ相談してみるとよいでしょう。子供については、 「トイレも含めて一人で行動させず、必ず大人が付き添う」ことが、 実際の被害事例を踏まえた教訓として繰り返し呼びかけられています。
物資面でも現場の声が参考になります。生理用品は「1日に必要な数が 正しく理解されず、1個しか配布されなかった」という声が報告されており、 自分の分は自宅からの持ち出し袋に多めに備えておくと安心です。使用済みの ものを人目にさらさず捨てられるよう、中身の見えないビニール袋を 用意しておくと、周囲を気にせず処理できます。
自宅を離れる際の空き巣対策(在宅避難以外を選ぶ場合)
避難所や親戚宅・ホテルなどへ避難して自宅を離れる場合、住民が不在になった 住宅を狙う空き巣被害が過去の災害でも報告されています。特に地震で窓ガラスが 割れていたり、施錠が甘くなっていたりする住宅は狙われやすくなります。避難する 際は、現金・通帳・貴重品はできるだけ持ち出し、窓・玄関の施錠を必ず確認しましょう。 割れた窓は、可能であれば板やベニヤ・養生テープなどで応急的に塞いでおくと、 侵入や雨風の被害を防ぎやすくなります。長期間家を空ける見込みがある場合は、 近隣の方や自治体・自主防災組織が行う見回り活動の有無を確認しておくと安心です。
車中泊中の防犯対策
車中泊は、周囲から中の様子が見えにくく孤立しやすいため、防犯面での注意が 必要です。就寝時は必ずドアをロックし、貴重品はダッシュボードやシート上など 車外から見える場所に置かないようにしましょう。目隠し用のサンシェード等を 使う場合も、完全に周囲の様子が分からなくならない工夫(音や気配に気づきやすい 配置)があると安心です。可能であれば知人と近い場所に停める、自治体が指定する 車中泊スペース(トイレ・見回りが整備されている場所)を利用するなど、 一人で孤立した場所に長時間とどまらないようにすることも有効な対策です。
貴重品・身を守るための具体策(避難所編)
現金・通帳・スマートフォンなどの貴重品は、荷物置き場に置きっぱなしにせず、 常に体に身につけられるポーチやウエストバッグに入れて携帯しましょう。就寝中も 枕元に置くだけでなく、体に密着させておくと安心です。就寝スペースは可能であれば 家族・知人とまとまって確保し、一人での夜間のトイレ移動や水汲みは避け、 声を掛け合える相手と一緒に行動することも有効な対策です。更衣室・授乳室が 男女別・時間帯別に区切られているか、避難所の運営者に確認しておくと安心です。 防犯ブザーを持ち出し袋に入れておくのもよいでしょう。現金・カード・スマート フォンなどを1か所にまとめず、複数の場所に分けて携帯しておくと、仮に一部を 失っても被害を最小限にとどめられます。また、パソコン・貴金属など高額品の 型番やシリアル番号、部屋の写真を平常時に控えておく(スマートフォンで撮影して おくだけでも構いません)と、万が一盗難にあった際の被害届や保険請求で 所有を証明しやすくなります。スマートフォンの「探す」機能をあらかじめ オンにしておくことも、紛失・盗難時の手がかりになります。
物資配布・場所取りをめぐるトラブルとマナー
過去の災害では、物資配布の際に割り込みや必要以上の持ち去りが起き、 トラブルに発展した事例も報告されています。自分が並ぶ側になった際は、 順番を守り、必要な分だけを受け取ることが基本です。逆に不公平な配布を 目にした場合、その場で個人的に注意して対立するのではなく、避難所の運営者・ 自治体職員に状況を伝え、ルールの明確化を求める方が、トラブルの拡大を 防ぎやすくなります。就寝スペースや荷物置き場の場所取りについても、 共用通路をふさぐなど周囲の迷惑にならない範囲にとどめることが、 集団生活を長く続けるうえで重要です。トラブルを未然に防ぐ手段としては、 物資配布の時間帯を早めに把握して余裕を持って並ぶこと、避難所の運営に 参加できる立場であれば「1人1点まで」「配布時間の掲示」といった 具体的なルール作りを提案することも有効です。避難所運営はボランティア・ 住民の協力で成り立っている場合が多く、ルールが整っていないと感じたら、 批判するだけでなく改善を一緒に働きかける姿勢が、結果的に自分自身の トラブル回避にもつながります。
生活音・すれ違いによるストレスへの向き合い方
子供の泣き声やいびきなど、本人の意思ではコントロールしにくい生活音が、 集団生活特有のストレスから思わぬトラブルの火種になることもあります。 気になる場合は直接相手を責めるのではなく、耳栓を使う、可能であれば 静かな場所への移動を運営者に相談するなど、環境側の調整を求める方法が 現実的です。誰もが同じようにストレスを抱えている前提に立ち、 過度な非難の応酬を避けることが、避難所全体の生活の質を保つことに つながります。
それでも被害にあったときの相談先
ここまでの対策はいずれもリスクを大きく下げるものですが、被害を完全に ゼロにできると約束するものではありません。万が一のときに一人で抱え込まず、 相談先を知っておくことも備えの一部です。盗難や暴力、ハラスメントなどの 被害にあった場合、その場で個人的に 「制裁」しようとするのは避けてください。当事者同士の私的な対応は、 さらなるトラブルや二次被害、場合によっては自分自身が加害者側と 見なされるリスクにもつながります。緊急の場合は110番、緊急でない 相談は警察相談専用電話「#9110」を利用できます。性被害やハラスメントなど 相談しにくい内容は、内閣府や自治体の男女共同参画センターの相談窓口も 活用できます。まずは避難所の運営者に、相談窓口の有無を確認しておくと いざというときに動きやすくなります。
不安を理由に避難をためらわないために
避難所に集まる人の大多数は、同じように被災した人たちであり、 助け合いの場として機能しているのも事実です。トラブルのリスクを 正しく知り、貴重品管理や行動の工夫であらかじめ備えておけば、 過度に恐れて避難自体をためらう必要はありません。それでも不安が 大きい場合は、在宅避難や車中泊など、避難所以外の選択肢を検討する のも一つの方法です。それぞれの特徴は避難先別ガイドで 詳しく解説しています。